メルトドラッグ法による薄板連続鋳造

 研究概要
  近年,省工程・省エネルギーを達成しうる板材の新加工プロセスが求められている.メルトドラッグ法MD法,右図参照)は,単ロール急冷凝固連続鋳造法の一種であり,ノズルより導入した溶湯を凝固ロールによって凝固させ,連続して薄板を作製することにより,急冷凝固による機械的性質の改善や,難加工材の薄板作製が可能である.各材料に適した実験装置の設計・製作から,作製した薄板の評価,理論解析に至る,総合的研究活動を展開している.

 

 

 アルミニウム合金,並びにマグネシウム合金について,メルトドラッグ法を適用し薄板作製プロセス構築を目的に研究を行っている.特にマグネシウム合金については,実用合金中,最軽量である事から,様々な用途への適用が期待されているが,結晶状態に由来する加工性の悪さから難圧延材に位置づけられている.本プロセスによれば,溶湯から直接薄板作製が可能であり,また結晶粒微細化による機械的性質の向上も図ることができる.近年では,メルトドラッグ法由来の薄板結晶状態による成形性向上の確認や,Al/Mg/Al三層クラッド薄板作製プロセスの研究を推進中である.
※本装置は現在解体され,新たに三層クラッド薄板作製装置を建造中である. 

Al/Mg合金 メルトドラッグ装置

Mg合金による実験動画



 メルトドラッグ法によって作製したMg合金薄板には,ロール接触面側にボイド(空孔)等の欠陥が観察されていた.これらの原因調査には溶湯とロールの接触部位での現象を明らかにする事が不可欠である.そこでロールを平板状の基材へと置き換えたメルトドラッグ法モデル実験装置を製作した.本装置は溶湯接触角度・基材材質・基材表面状態等のメルトドラッグ法における各種パラメータが容易に変更出来,様々な実験条件下での薄板作製状態,欠陥発生傾向等の調査が可能である.近年では,基材面粗さの薄板作製に及ぼす影響調査,各種Mg合金のメルトドラッグ法への適用,メルトドラッグ法を応用した成形加工プロセスの研究等を行っている.

 MD法 モデル装置

 Mg合金による実験動画



  銅及び銅合金は,優れた導電性と熱伝導性を持つことからエレクトロニクス分野を中心に広く需要が拡大している.しかしながら,世界的な需要の高まりにより銅地金の価格は高騰している.現在,半導体等への利用が多い銅板条は熱間・冷間圧延によって作製されているが,要求されている板厚の薄板を得るまでには多くの工程を要している.本研究では,主に軽金属に対して研究されてきたメルトドラッグ法を銅薄板作製へと適用し,ニアネットシェイプ加工を達成することで省工程化,省設備化そして省エネルギーによる加工コストの低減を目指している.
   

 Cu合金 メルトドラッグ装置

 Cuによる実験動画

 



 MD法を応用したAl合金棒,パイプ,クラッド線材の作製

研究目的と概要

 近年,構造材あるいは鍛造用素材としての棒やパイプにはより一層の高機能化やコスト削減が求められるようになってきている.現在,メルトドラッグ法を応用し,2つの孔型ロールを用いる(模式図参照)ことで,急冷凝固アルミニウム合金の棒を作製することを目的とし,研究を行っている.省工程だけではなく,急冷凝固により鍛造用素材として重要な限界圧縮率の向上や,晶出物の微細分散化による熱処理時間の短縮を図る.また,スラスターを用いた半凝固成形を行うことによるパイプ作製や,心材を接合時に挿入することでクラッド棒材作製,異種合金を各ロールより掻きあげ接合させることで機能性材料の連続作製を行う等の応用プロセス開発も行っている.また同時に,二次元伝熱凝固解析による作製時の挙動調査も行っている.

実験装置

模式図



模式図(パイプ) Al/Cuクラッド線材 実験動画


 MD法による発泡Alを用いたサンドイッチパネル/角パイプの作製

研究目的と概要

 発泡アルミニウムはその軽量性・断熱性・エネルギ吸収特性等から建材や車輌部品への適用が期待されている.本研究では発泡アルミニウムの表材であるパネル材との接合にメルトドラッグ法を適用し,連続したサンドイッチパネル作製プロセスの構築を目指している.また装置はこれまでなかった四方ロールを備えており,上下に加え左右からの薄板作製によって角パイプの作製も可能である.従来の接着剤による接合に比べ,強固な接合が可能であり,発泡アルミニウムの適用範囲拡大が期待できる.


      実験装置 試験片例



 Al基SiC粉末複合材料の半溶融圧延

研究目的と概要

 Al基SiC粉末強化複合材は耐磨耗性・低熱膨張等の優れた性質を有しているが,その硬さから,通常の加工法が適用困難な材料である.そこで本材料を半溶融状態まで加熱し加工することにより,その加工可能限拡大の可能性を模索している.研究活動では,半溶融圧縮・圧延実験に適した装置の設計・製作,またいまだ明確になっていない半溶融状態における塑性変形解析も行っている.


 実験装置


製品例 半溶融での解析例


 アルミニウム製燃料電池ケースの冷間鍛造

研究目的と概要

  後方押出加工(鍛造)による非軸対称薄肉アルミニウムケースの製造において,割れ,欠肉,偏肉,耳等の欠陥が発生する事例がある.本研究では,工具形状等のパラメータを変化させ材料流動の均一化を図り,欠陥の発生を抑え生産効率を向上させることを目的としている.数値解析によるシミュレーションとそれに対応する実験により,工具形状の各種パラメータや材料の異方性等の製品特性への影響調査を行っている.


模式図 スラグと製品例



 鉛フリー・黒鉛含有快削黄銅棒の各種特性調査

研究目的と概要

  黄銅はその美的外見,導電性から装飾品や電子部品,バルブ部品の素材として古くから用いられてきた.しかしその切削性は悪く,従来は性質改善の為,鉛を3%程度添加して使用していた.しかし健康に対する危険性から,欧州におけるRoHS指令など,鉛の使用は次第に制限されてきており,代替快削黄銅の開発・製造が急務である.本研究では近年開発された黄銅・黒鉛複合材の未だ明らかになっていない鍛造性を調査,さらに鍛造による機械的性質の変化を調査し,新材料の可能性を見出すことを目的としている.さらに,数値解析により押出し・鍛造シミュレーションを行うことで,各種加工パラメータの製品に及ぼす影響を調査し,本材料の作製から塑性・切削加工に至る総合的なプロセス提案を行う.


試験片外観 組織観察